裁判官のあたまの中
投稿日:2017年2月23日
カテゴリ:事務所ブログ
時々、「裁判所で真実を明らかにしてやる!」と息巻く方がいます。しかし、裁判所は、真実を明らかにするところではありません。
裁判所は、「あなたの主張の正しさを示す証拠が、十分あるかどうか」を判断するところです。「真実」がどうであろうと、証拠がなければどうしようもないのです。裁判官のあたまの中は「証拠が十分か?」ということで占められています。真実など、アウトオブ眼中、なのです。また、証拠に基づいた、客観的な裁判、直感や恣意に支配されない裁判という意味では、そうでなければなりません。
かつて、ある女性が、夫が浮気しているので、別れたい、とご相談に見えました。
浮気の証拠はあるんですか?と尋ねると、女性は次のような話をしてくれました。
「私と夫は、二階で、寝室を別にしてやすんでいます。夜中、夫はこっそりと抜け出して、どこかへ行っているんです。私がそれを咎めると、玄関からは出ていかなくなりました。見ていると、二階のベランダからロープを垂らして、それを伝って庭に降りて、どこかへ出かけていくんです。それに、自分が部屋にいないのを私に気づかれないようにと、わざわざベッドの中にクッションを入れて、人型を作り、まるでベッドの中に潜り込んでいるかのように見せかけて、ベランダから下りていくんです。そこまでして出かけるのです。女に会いに行く以外、何か目的があるでしょうか?でも、朝になってから私がどこに行ったのかと聞いても、自分は出かけていない、の一点張りです」。
クッションで人型を作り、カモフラージュしてまで、夜中の外出を繰り返す夫。確かに誰もが、これは怪しいと思うでしょう。しかし、これだけでは、不貞行為があったから離婚したい、と裁判を戦っても、勝てないのです。限りなく黒に近いグレーですが、黒ではないからです。
そう、ご説明すると、奥さんは「でも、妻である私にはわかるんです。女がいると。もう、20年も連れ添っている夫のことは、私が一番よくわかります」と、涙をこぼしながらおっしゃいます。
それはそうでしょう。私もおそらく奥さんの推測が、一番真実に近いのだろうと思います。しかし、それだけでは裁判官は、「不貞行為があったと認められる」とは、判決に書くことはできません。
この場合には探偵を付けて、夜、ご主人が女のところに行っていることを突き止められれば、不貞行為を立証できたでしょう。しかしいろいろな事情から、奥さんはそれができませんでした。
裁判所にできることには、限界があります。大切なことは、裁判所を説得するだけの証拠を集めておくことです。それがいざというときの、勝敗を決定することになるのです。
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