弁護士法人の業務停止命令から考える
投稿日:2017年11月6日
カテゴリ:事務所ブログ
テレビCMでおなじみだった弁護士法人アディーレが、所属弁護士会から二か月の業務停止命令を受けてから、3週間ほどが経ちました。
この件は改めて、お客様に対する、事件に対する、弁護士の在り方を考える契機を、我々の業界に与えてくれたと言っていいでしょう。
アディーレは、非常に多くの債務整理、破産等の事件を、独特の方法と料金で手掛けていました。料金面からいうと、アディーレは高い。非常に高い、と言っていいでしょう。にもかかわらず多数のお客様がアディーレに依頼したのは、「全国展開で、あれだけCMを打っている、規模の大きい事務所だから」信頼できる、という理由でした。そしてアディーレは、業務を徹底してマニュアル化し、弁護士ではなく、事務員に業務の大半をこなさせることで、非常に多数の債務整理系の事件を受任していました。
このやり方ですと、確かに儲かることはもうかる。現に、業務停止命令が出る直前、アディーレは弁護士会に億単位の寄付をしようとして拒絶されたと聞いています。億単位の寄付ができるほど、儲かる。
しかし、本当にそれでいいのかということです。多くの弁護士がこのようなアディーレのやり方に、何となく違和感をもっていました。
その違和感の最もたるものは、「事務員による」「マニュアルに従った」「機械的な」事件処理です。
確かに破産や債務整理は、手続きですので、ある程度画一的な処理ができるかもしれません。しかしその背後にあるのはお客様の人生です。破産、という非常に重大な人生の節目をお任せいただくそのときに、お客様の思い、ご家族の思い、債権者の思いを踏まえて、お客様と一緒に、新しいスタートを切るために手続きを進める。そしてご一緒に未来図を描いていく。それが破産手続きだと、多くの弁護士は考えてきました。
「資料揃えて申立書書いて、提出して免責審尋を受ける。どの破産でも一緒だろ。機械的にどんどんこなせばいい」というのも、確かに、あり、なのでしょう。ですが私たちには、やはり何となく違和感がある。それは、破産を単なる「手続き」と考えるか、お客様の人生の節目だと考えるか、の違いなのかもしれません。
弁護士は法律と裁判実務の専門家であり、職人です。たとえ機械的に量産できる作業であっても、一つ一つ手作りで、丹精込めて作っていく、そうでないと職人の意味がありません。同様に、たとえある程度マニュアル化し、機械的に量産できるような事案であっても、一つ一つ丁寧に向き合うこと、それこそ職人の意味ではないでしょうか。
私たちの事務所は小さな事務所です。お客様と弁護士との距離がとても近い。だからこそできることがあり、作業を敢えて機械的に処理しないことによって、より心を込めた事件処理ができる。私はそう信じています。心を込めようと込めまいと、破産は破産。事務的に申し立てをするだけではないか、と言われてしまえば、それはそうかもしれません。しかし、手織りの布と機械製の布では、やはり温かみが違うように、単なる手続きであるとしても、私たちの事件処理が、お客様の心の中に、人生の中に、何か一つでも残せればいいと願います。あのとき、ああいう弁護士がいて、こういうことを言った。その一つだけでも残れば、弁護士たるもの、まさにもって瞑すべし。そう願って、日々の事件を処理していけるよう、精進してまいります。
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