シップファイナンス及び海事法務
当事務所では、船舶が建造されてからその寿命を終えてスクラップになるまでに生ずる法的問題を専門的知見と経験から分析検討し、適切なソリューションを提供致します。
船舶に関わる様々な契約書の作成やレビュー、登記登録、法人設立等の海事関連手続を行っております。船舶は動産ではありますが、国籍を有し、その所有権及び担保権は公の登記簿に登録されます。所有者が登録し、Flagをもらう国は原則としてOwnerの設立準拠国ですが、国によっては外国で設立された法人に対して、別途当該国で外国法人として登録することによりその国の船籍の船舶の所有登録を認めています。ポピュラーなものとしては、マーシャルアイランド、リベリア、香港等があります。又、所有権の登録とは別に裸用船契約(Bareboat Charter)に船舶を出し、裸用船者が裸用船者の設立準拠国で登録する裸用船登録も普及しています。裸用船登録をする理由は主として裸用船者の国の船員に適用される各国の船員組合やITF(国際運輸労働組合連合会)の定めるタリフ(最低賃金)をより有利な国でする場合が多いためです。裸用船登録をされた場合は、抵当権は原登録国において設定、登記され、その効力は裸用船登録によって妨げられることはありません。
シップファイナンスとは
シップファイナンスとは船舶及び船舶の保険金及び船舶の収益を担保に、船舶の建造資金、取得資金を融資するファイナンスです。
シップファイナンスの担保
(1)抵当権
船舶は動産でありますが、所有権は船籍国の公の登記簿に登録され公示されます。抵当権も同様であって、登記されることが抵当権の有効要件です。船舶抵当権は当該船籍国の法律に従って作成されなければなりません。その準拠法は,少なくとも抵当権の担保物件としての要件に該当する部分は当該船籍国法となります。抵当権設定契約書(Mortgage Deed,又は英法系の国の場合Mortgageと別国のDeed of Covenants)には当該抵当権が何を担保するのかを明示し、被担保債権について主要な内容を記載します。また、融資契約のコピーを抵当権契約に添付する場合もあります。抵当権者は被担保債権に関して債務不履行が発生した場合、船舶が物理的に所在する場所の裁判所に競売を申し立てます。裁判所は,外国船舶抵当権である場合は当該外国準拠法に従って有効かを判断します。また、裁判所は、その裁判所の国での外国の担保物権承認の要件を審査したうえで競売を開始します。実際上差押えと競売開始決定ができない国は非常に限られていますが、例えば抵当権は必ず公正証書によらなければならないと定めていたり、公証人の認証を取得していなければならないとされている国は少なからずあります。従って、抵当権設定に関しては、どこの国でも実行されるように最も厳格な要件に従うのが理想です。
(2)定期傭船料譲渡
船主は同族会社等比較的規模が小さい会社が多く、上場会社は少ないです。そこで,日本の金融機関の船主に対する融資の場合,与信を強化するために船主が締結する優良傭船者との間の長期定期傭船契約を担保化することが一般的です。欧州の銀行のシップファイナンスは、必ずしも長期定期傭船を必須としていないのと対照的です。定期傭船契約は、ニューヨークプロデュースフォーム(貨物船の場合),Shell Time(Tankerの場合)などいくつかの制定書式があり、それに修正を加え、また、追加条項(rider)を加えます。定期傭船が成立するためにはRecap(Recapitulation)と言われる主要条件を(原則として)ブローカー経由で交渉し,合意に達した段階で契約として成立します。Recapは比較的簡略で要点のみ記載しているものと実際の契約とあまり変わらないほど詳細なものとがあります。定期傭船契約の正式書類の調印は、本船の引き渡しの直前になるか,場合によっては引き渡し後になる場合もあります。定期傭船料債権譲渡は現在発生し及び傭船期間中将来発生する定期傭船料債権を譲渡日に一括譲渡するもので、傭船料が発生するごとに順次譲渡していくものではありません。定期傭船は本船が稼働しない場合Off Hireとなり傭船料が発生しません。長期Off Hireになると担保としての期待に添わなくなるのでLoss of Hire Insuranceという保険でカバーすることもあります。この保険も別途保険金請求譲渡担保で融資者に譲渡されます。
(3)保険金請求譲渡
船舶が全損になるなど,その担保価値を減失もしくは減少させた場合にこれを補完するのが保険金です。保険金請求権は、担保として融資者に譲渡されます。
この譲渡は保険金請求権が具体的に発生した時に譲渡されるものではなく、譲渡契約調印日に将来発生すべき保険金請求権、すなわち将来の条件付き債権を一括譲渡するものです。
保険には、損害保険会社が直接引き受ける場合(日本の船主の場合このパターンが多い)と、Insurance Brokerがアレンジし、通常複数の保険引受人(アンダーライターと言われる)をBrokerが集めて分割してかける場合(各アンダーライターは船の引受部分のみ責任を負う)のパターンがあります。損害賠償債務を担保する賠償責任保険については、日本の保険法上は譲渡ができないこととなっていますが、外国法では必ずしもそうではなく、例えば保険の準拠法としてポピュラーな英法ではそのような禁止はありません。
債務不履行時の対応
借入人もしくはLeaseのLesseeや傭船者の支払い能力に支障が生じた場合、まず支払い金額減額要請やリスケ要請が来るのが通常の経過であり、また、場合によってはそのような要請と共に実際減額された金額のみが払われる場合もあります。このような場合,船主側は権利留保通知(Reservation of Rights Notice)を出します。これは,このような要請を放置していた場合に黙示の同意があったとみなされることを防ぐためです。日本法では不作為が黙示の同意とみなされるためには相当厳格な要件を満たす必要がありハードルが高いですが、英米法はハードルが低いです。
また,債務不履行の場合には船価鑑定(担保価値)を確認します。債務者の経営状況や市場の今後の見通しを総合考慮して現時点で担保処分が必要と判断した場合は、契約書を精査の上、債務不履行通知(Default Declaration)を行います。
国際海事仲裁
用船契約や船舶の売買契約の場合、仲裁合意規定が規定されていることが多いです。
仲裁の場所については、売買の一方当事者が日本で相手方がアジアの国の場合は日本海運集会所となることが多いですが、欧州の用船者の場合はロンドン仲裁の比率が圧倒的に高いです。ロンドンにおいてはプロの海事法務に精通した仲裁人がおり、他方日本の場合プロの仲裁人はほぼいないと言ってよいです。英国(London)仲裁の場合、通常ソリシターを通じてバリシターを任命する場合と、ソリシターだけで行う場合がありますが、それぞれの仲裁機関の仲裁ルールにおいて行われます。コロナ禍で現地に赴いて仲裁を行うことが困難になったため、Webでの仲裁も行われますが、十分な仲裁ができるか当事者が不安に思うこともあって、仲裁件数は減っているのではないかと思われます。ロンドン仲裁には仲裁人の費用、弁護士の費用など相当高額の費用がかかります。尚、5万米ドル以下など少額の簡易仲裁手続きも定められており、こちらの方は費用が抑えられています。